ヴェヴェイに到着した最初の日のことだ。
ケーブルカーを降りてホテルへ向かう途中、係留された幌馬車の周りにテントを張り、食事をしている一家族に出会った。
チェックインの折に、受付で尋ねてみた。
「玄関前の広場で、ピクニックをしている人たちがいますね」
受付係は、少し困ったような顔で答えた。
「ピクニックではありません。しばらくあそこに住むのです。この季節になると、毎年やって来ます」
さらにこう続けた。
「ヨーロッパ中を移動しながら暮らしている人たちです。このあたりには一か月ほど滞在して、またどこかへ行ってしまう。行き先は誰も知りません。そろそろ旅立つ頃でしょう」
「危険はないのですか」と聞くと、
「心配はいりません。おとなしい人たちですよ」と、静かに答えた。
数日後、チェックアウトの朝。
玄関前の広場を見て、私は思わず足を止めた。
旅する人たちの姿は、跡形もなく消えていた。
そこには、最初から何もなかったかのように、
整えられた静かな広場が広がっているだけだった。
あれは、ほんの短い夢だったのかもしれない――
そんな錯覚にとらわれるほど、見事に消え去っていた。

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